傍観者


「…うっ、お…ぇぇ…っ…」
「おい、九条。もうそろそろ慣れろ。」
「む、無理ッス。なんでこんなおええええ」
「頼むから外で吐け馬鹿野郎。ったく、捜査の邪魔するなら帰ェれ馬鹿が」
「だ、大丈夫ッス!おさまりましたから!」
「口元拭け。周りに伝染する」


ごしごしと口元を乱暴に拭い、その口元を白い布で覆った。気を抜けばまた胃液が逆流し、先ほどのような醜態をさらしてしまいそうだった。目の前にあるこれは、本当に人間だったのだろうか。そんな疑問が生まれてしまうほど、それは酷いものだった。周りの刑事に比べてみて確かに、彼女_九条麗(クジョウレイ)は経験も浅く、新人と何ら変わらぬものであったが今までに何度も殺人現場や事故現場など、一般人ならまず、運が相当悪くない限りお目にかかることができないようなものを目の当たりにしてきた。刑事になる前、というよりも、警察学校にもまだ入っていなかった、世間でいう“華の女子高生”時代にばらばら殺人を目撃したこともある。さすがにその時は先ほどのような醜態をさらしてしまったが、ここまで何度もそのような現場を目の当たりにしていれば、人間、慣れてくるというもの。しかし、今回は別だ。




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