チャット★ティチャー
咲美は声をかけてはこず、心配そうな表情で俺を見ていた。

「委員長ありがとうな。」

「あの時、委員長がいなかったら、きっと俺は家に逃げ帰って、引きこもっていたと思う。」

そう言うと、懸命な作り笑顔で咲美は俺の手を握ってくれた。

「自分の今を変えてきて。」

咲美はそう一言だけ、祈る様に小声で呟いた。

三人が道場の隅に腰掛けると同時に、道場の扉が勢いよく開いた。

恭介だった。

「ギャラリーも連れてきてやったぜ」

不敵な笑みを浮かべる恭介の後ろから、ゾロゾロと生徒達がやってきた。

目立ちたがり屋の恭介の事だ。

大勢の前で俺を叩きのめしたいのだろう。

予想以上の大人数がなだれ込む。

全校生徒の半数近い人間が来ているのではないかと思わせるほどの人数だった。

集まる視線。

俺がみっともなく負けるのを心待ちにしているギャラリー。

緊張の大波が俺に押し寄せた。

膝がガタガタと震えだす。

負けたら、また笑い物にされる。

頭の中はそれで一杯だった。

この時の俺の顔は二年前、尋に出したラブレターが貼りだされているのを目の当たりにした時と同じ表情をしていたに違いない。



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