秋桜が散る前に
序章 秋桜が散った後に
後悔
コスモスが散った。
奏太(ソウタ)くんの命も散った。
どうして、もっと早く動けなかったんだろう。
どうして避けちゃったんだろう。
「牧師さん、どうしてですか?どうして、奏太くんがこんなに早く……」
「神の御元に召されただけですよ。こうなるのも、すべて主の御導き…」
ベッドに眠る奏太くんは、とても穏やかで、今にも起きてきそうな気さえする。
起きてきて…また呼んでよ。
咲夢、学校はどうだ?
咲夢、悩みごとはないか?
咲夢、よくやったな。
咲夢って呼んでよ。
もう一度呼んでよ。
神様、あなたはずるいよ。
奏太くんの声も、優しい手も、みんなあなたの元。
あなたが独り占め。
叶うのなら、私もそこへ行きたい。
「奏太、奏太…よく、頑張ったね。よく生きたよ。あなたはわたしの自慢の息子…」
お母さんがそう言いながら私の隣りで泣いている。
兄弟達も泣いている。
私は、泣けない。
涙が出ない。
好きだった。
大好きだった。
いつもみたいに、冗談だよーんって、言ってよ。
その手でまた私の頭を撫でてよ。
私はなぜだか泣けない。
なのに、誰よりも、3歳の弟よりも往生際悪く奏太くんのパジャマの裾を握って、全力で奏太くんの死を否定していた。