秋桜が散る前に
「ちょっと、俺帰る。用事あるし。サクラさんも帰るだろ?門限は確か16歳は8時だったよな?」
不意に秋くんがそう言ったのは、私の精神的疲労(主に藤子による)がピークに達していた時だった。
もう席替えは4回目に達していて、定番の王様ゲームとかで精魂尽き果て口から魂が出そうだ。
だから秋くんの申し出は神様の恵み級の者だった。
「えー、秋くんかえっちやうのー?咲夢もー?」
げぇっ、藤子!忘れてた!
私は一気に帰る気を無くす。
藤子に目をつけられたら殺される〜。
「まぁでも咲夢のお母さん門限厳しいもんね。帰りなよ。」
「う、うん…ありがと優香。じゃあ、ごめんなさい。今日は楽しかったです。」
藤子のトゲトゲした視線を浴びながら私は秋くんと部屋を出た。
優香にはホント助けられた。
もちろん、秋くんにも。
「大丈夫だった?随分疲れてるみてぇだったから、とっさにあんな嘘ついてみたんだけど…」
そう。孤児院に私への門限なんてないのだ。
そもそも15歳以上の私が孤児院にいる事自体が異例なんだから。
それもこれも、皆お母さん…私立珀泉(ハクセン)女子学園理事長であり、孤児院・『ガブリエル』のお母さん、成瀬川 千歳さんの好意によるものなのだから。