秋桜が散る前に
孤児院『ガブリエル』は成瀬川 千歳さんのポケットマネーと善意の募金、それからボランティアで賄われている。
今は私を含め9人の子供の面倒を見ている。
去年まで、10人だったけど。
「もう暗いし、送るよ、サクラさん。」
「えっ、でも…」
「いいから。方向も一緒だし。」
いいんだろうか。お母さんは喜ぶだろうけど…
私達は孤児院の方へ歩き出す。
あれ?
私、孤児院がどこかなんて教えたっけ…?
奏太くんにでも聞いたのかな…
「空くん、面白いね。奏太くんとも友達だったみたいだし。」
「あいつは誰とでも仲良くなる。ありゃ天才だな。」
「いいなぁ。私もそんな才能欲しい。」
「サクラさんは綺麗な歌声、持ってんじゃん。」
「こんな変に目立つ才能いらないよー。たいして歌が上手い訳でもないし。」
「俺は、いいと思うけどな。サクラさんの歌。」
ざぁっと風が吹いた。
街路樹の桜の花びらがスコールみたいに降って来た。
私は思わず立ち止まる。
秋くんも立ち止まる。