秋桜が散る前に
聖母の福音
中学の時からの親友の奏太が死ぬ前から、咲夢さんのことを知っていた。
奏太からきいていたってのもあるけど、1回孤児院の前で見掛けた事があったから。
その日はたまたま用事があって、孤児院『ガブリエル』の前を通った。
中3の秋。
孤児院の花壇にはコスモスがあふれんばかりに咲いていた。
その中に、赤ん坊をあやしながら歌う1人の少女。
「―…聞けや愛の言葉を
もろくに人らの
罪とがを残す主のみ言葉を
主のみ言葉を
やがて時は来たらん
神のみ光の
あまねく世を照らす
明日は来たらん…―」
あんまりにもきれいな声で歌っていた。
まるで、聖母に話しかけられているような気分。
どんな歌手にも負けない、優しい声………
彼女が、成瀬川 サクラ。成瀬川 奏太の妹で……
奏太の、好きな奴だってことは、すぐに分かった。
奏太はよく、咲夢さんのことを、聖母と呼んでいたから。