秋桜が散る前に
咲夢さんの受験が終わって、俺は、奏太に頼まれた伝言を伝えるために、何度も『ガブリエル』に行った。
だけど、いつ行っても咲夢さんは奏太の事で悲しんでいて、泣いていた。
『ごめんなさいね、穂高くん。咲夢と奏太は、とても仲がよかったから…。』
『ガブリエル』の設立者で、奏太の戸籍上の母親の成瀬川 千歳さんはそう言葉を濁した。
この人も、気づいてる。奏太の気持ちと、咲夢さんの気持ち。
消えることのない、純粋な想い。
4月になって、咲夢さんは公立早瀬(ハヤセ)高校に通い始めた。
目は、奏太を失ったときのままで、俺が学校から帰ってくる途中に通る教会から聞こえてくる声も、悲しみでいっぱいのままだった。
だから、俺は彼女に話しかけることにした。
最初に咲夢さんを見たときから、俺は彼女に惹かれてもいたから。
なにより、彼女に笑って欲しかったから。
あの、コスモスが咲いていた日のように。