秋桜が散る前に



咲夢さんの受験が終わって、俺は、奏太に頼まれた伝言を伝えるために、何度も『ガブリエル』に行った。


だけど、いつ行っても咲夢さんは奏太の事で悲しんでいて、泣いていた。




『ごめんなさいね、穂高くん。咲夢と奏太は、とても仲がよかったから…。』




『ガブリエル』の設立者で、奏太の戸籍上の母親の成瀬川 千歳さんはそう言葉を濁した。



この人も、気づいてる。奏太の気持ちと、咲夢さんの気持ち。


消えることのない、純粋な想い。



4月になって、咲夢さんは公立早瀬(ハヤセ)高校に通い始めた。 


目は、奏太を失ったときのままで、俺が学校から帰ってくる途中に通る教会から聞こえてくる声も、悲しみでいっぱいのままだった。


だから、俺は彼女に話しかけることにした。


最初に咲夢さんを見たときから、俺は彼女に惹かれてもいたから。


なにより、彼女に笑って欲しかったから。


あの、コスモスが咲いていた日のように。







< 33 / 65 >

この作品をシェア

pagetop