秋桜が散る前に
今、咲夢さんを支配しているのは、もういない、お前なんだぜ。
「奏太くん…」
「っどうして…」
どうして、奏太しか見ない。
淡い想いがどんどん濃くなっていく。
時を重ねるたび、咲夢さんに合うたび、
咲夢さんの好きな所が増えていく。
なぁ奏太。
勝ち逃げって、どうなんだよ?
「行かないで、奏太くん…行かないで…」
いつまで咲夢さんを縛るつもりなんだ。
俺がどうして『咲夢さん』って呼んでいるのか分かるか?
最初、彼女は俺に向かって、お前をよんだから。
俺じゃなくて、お前を呼んだ。
俺にお前を重ねたんだ。
俺は奏太じゃない。
それを主張したくて、俺は『咲夢さん』と呼んでいる。
ギュッと、俺の手を握る咲夢さんの力が強くなった。
驚いて見てみると、咲夢さんは泣いていた。
止まる事のない涙。
奏太が死んだ、あの頃と変わらない、純粋な涙。