秋桜が散る前に



彼はうつむいた私を見て、戸惑ったようだが、やがて口を開いた。




「俺、穂高。穂高 秋(ホダカ シュウ)。奏太から、サクラさんの事はよく聞いてる。」




サクラさん



そう呼んでくれてちょっとほっとした。


これでサクラなんて呼び捨てにされたら、私は間違いなくないこの人から逃げていたに違いない。




「奏太、くんが…あの、私に何かご用事でも…?」


「奏太から、伝言。」


「え…?」


「―受験成功おめでとう。これからも、頑張れ。―」




そう言って、穂高 秋くんは優しく笑った。



私は涙を制御する事を忘れてしまっていた。



―これからも、頑張れ。―




頑張れないよ。


奏太くんがいなきゃ、私頑張れない。


未来なんか見えないし、

誰に頼ればいいのか分からない。


神様はずるい。


どうして奏太くんが先なんだろう。



心の中にためてていた不安が涙になってとまらない…………




「…―きみのたましいと
わかいちからを

かみのみなのため

つよくもちいよ

みこはさきだちて

すすみゆかれる

きみのたつことを

まっておられる…―」




不意に、穂高 秋くんが『賜物』を歌い出した。

ときどき音階があやふやで、リズムもメチャクチャだけど、


彼の低い声には私を落ち着かせる何かがあった。







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