秋桜が散る前に
穂高 秋くんはクスッと笑った。
まるで物分かりの悪い子供に呆れるかのような…
「ひっどい!子供扱いしないでくださいぃ!」
「悪い…なんか、奏太の気持ちも分からんでもねぇかな…」
「奏太くんはこんなに意地悪じゃなかったもん!」
「当たり前だろ。俺、奏太じゃねぇもん。」
そんな事言われたらぐぅの音も出ない。
確かに穂高 秋くんは奏太くんじゃないんだから。
気まずくなって箱ブランコから出てベンチに座る。
穂高 秋くんは箱ブランコから出る事なくそのまま私に話しかけて来た。
「奏太は、サクラさんの事ばっかり話してた。サクラさんのテストの点数とか、歌が上手い事、面白い話……俺があいつとダチになって、聞いたのはサクラさんの話と孤児院の話だけだ。」
穂高 秋くんはそれだけ言うと、不意に立ち上がって私の前に立った。
「今日は急に、悪かった。でも、サクラさんの歌声を聞いていて、サクラさんは立ち直りそうになかったから…それじゃ、バイト頑張って。」
そう言って、穂高 秋くんは庭から出て行った。
変な人。
私をからかっているのかと思えば、『悪かった』という。
雰囲気は奏太くんで、奏太くんじゃない。
そんな、不思議な人だった。
穂高 秋という人は。