愛 理~airi~
ほとんど利用しない駅の改札を潜れば、夜に足を踏み入れたオフィス街が広がった。
ぞろぞろ帰宅して行くであろう人だかりとは、逆方向にひとり足を進めて行く俺。
駅からほどなくして着いたのは、堂々とした佇まいの朝倉エンジニアリングだ…。
「・・・メールするか」
今日も残業だと言っていた真咲に連絡を取らず、ここまでやって来たものの。
アポ無しで向かうのは気が引けるからと、携帯電話を取り出して操作していると…。
「大和じゃないか!」
「…平蔵さん」
聞き覚えのある大きな声で呼ばれた俺は、ハハ…と苦笑しながら振り返ってしまう。
朝倉を一代で築き上げた人物が、秘書を従えて帰路に就こうとしていたようだ。
「何だ、お迎えにでも来たのか?」
「まあ…、それより、先日はありがとうございました」
「いやいや、本当に素晴らしい式だったよ」
「そう仰って頂けると、素直に嬉しいです」
平蔵さんにお礼を伝えれば、シワだらけの顔を緩ませて笑ってくれて。
色々と真咲の諸事情を知っている彼の表情に、優しさが溢れているようだ。