愛 理~airi~
ポカンとしている真咲はもう、すっかり平蔵さんの事を忘れ去っているのだろう。
ブラウンの大人しい眼鏡のレンズ越しに俺を捉えて、その言葉の続きを待っている。
「今まで言わなかったけど…。
真咲の仕事の様子は、少しなら知ってるよ?」
「えー、うそ!…どうして!?」
“鉄の女”の異名を持つほど、男社会で男を打ち負かして戦う真咲だが。
どうやら社外にも名を轟かせている事は、本人が一番気づいていないようだ。
「ハハッ、理由なら…」
「え?ああー!」
やっぱり明らかに動揺する彼女の可愛さに、またひとつ笑うと後方を指差した。
「ハハハッ、私のコトを忘れていたようだな」
「す、すみません…!」
「真咲さんも大変だ」
「いえ、とんでもございません…」
その指の先が示す方へ向いた瞬間、豪快に笑い飛ばす会長に平謝りしている。
…今度は仕事モードのスイッチが入ったのか、真咲の表情はどこか冷めていて。
いかに日々厳しい競争社会で頑張って来たかが、垣間見えた気分となった。