愛 理~airi~
「おー、コワい、コワい」
「泉に言われたくないわよ。ねぇ宇津木くん?」
仕事モードに入ると人格が変わる、という彼女は少し砕けて来ているのかもしれない。
そんな真咲の様子を笑いながら、少し遅れて戻って来たマイペースな小林さん。
「は」
「は、…の続きは何よ?」
宇津木くんから亜実ちゃんの手を奪い取れば、目が笑う事なく口元を緩ませている。
「えっ――いや…、判断しかねます?」
「真咲、明日からビシバシしごきなさい」
「宇津木くん…、女王様には逆らわないが一番よ?」
「すいません、勘弁して下さい…!」
初めて電車内で会った仕事帰りの時より、表情が格段に柔らかくなっているからだ。
それは仕事師の彼女を理解してくれる、宇津木くんの存在もまた大きいのだろう…。
「ねえー泉ちゃんは、シュンお兄ちゃんと仲良しなの?」
会ったのを幸いとして、それからイルカショーを皆で見に行く事にしたのだが。
結局聞けずじまいにいた問いを、亜実ちゃんがサラッと悪気なく聞いてしまった。
「んー…仲良しっていうより、手下?」
「てしたぁ…?」
「そうそう。亜実ちゃんもね、大きくなったら分かるわよ」
真咲の呆れた叱咤もスルーして、軽快に笑い飛ばして小林さんはやはり女王様。
何より…、大人になっても亜実ちゃんがソレと無縁であって欲しいと願うばかりだ…。
【#十一 時 間★終】