愛 理~airi~
そんな彼女との鮮烈な出会いを思い出し、フッと自嘲した笑いを浮かべながらも。
ビジネスバッグとともに小さな袋を二つ提げて、今度はホテルを目指していた時――
「――ヤマト…」
ふと蚊の鳴くような…小さくて聞き慣れた声が、背後から聞こえて立ち止まった俺。
「あれメアリー、どうした…」
「アナタが悪いんだから…っ」
コツコツとパンプス音を鳴らし、虚ろな眼差しで笑う彼女が近づいて来た刹那。
「っ、ウッ…」
メアリーが手にしていた鋭いモノが、グサリと自身を貫く音が聞こえた気がした。
「アナタが…、悪い…んじゃない…!
私以外の女と…幸せになんか、ならないでよ…!」
そしてカチャンと鈍い音を立てつつ、鮮血に濡れた小さなナイフが路上へと落ちて。
ソレと同時に、俺が手に抱えていた荷物も次々と道路へ直下して無常に落ちていく。
「アナタが悪いのに…っ!」
「おい、早く取り抑えろ…!」
泣き叫びながら狂乱するメアリーを、近くにいた通行人が慌てて抑えにかかったが。
「っ、ま、さき…」
俺はクラクラと眩暈を起こし、酸素が薄れゆく中で何も出来ずに力が抜けてしまう。
スーツの下から染み出す自身の血と痛みが、確かな記憶をソコで寸断させた・・・
【#十六 生 命★終】