愛 理~airi~
もう私には大和がイナイ人生は考えられないし、想像もしたくないのに・・・
「い、やぁああ…!」
「奥さん…!?」
真っ白になった頭を抱えようとすれば、ゴトッと大きな音がして受話器が床へ落ちた。
“実は――…川崎くんが、当社の同僚に道端で刺されて重症を負いました。
彼は病院で緊急手術を受けています…、奥さん早くコチラへ来て下さい!”
出張でアメリカに行った大和が…、同僚に刺された…――緊急手術…?
大和の勤めるGEL本社の日本人スタッフから入った、信じられない言葉が木霊する。
「や、まと…な、んでぇ…!?」
何も返って来ようの無い問いかけが、シンと静まるリビング内で虚しく消えていく。
“行って来ます!”
大好きだった母と同じように、笑顔で出掛けていった大切な彼の姿が忘れられない。
冷たいリビングのフローリングへ力なく座り込めば、出て来るのは止め処ない涙だけ。
ポタポタと瞳から落ちていく涙を、いつも優しい指先で拭ってくれた彼が重症…?
「…い、やぁあ…っ」
嫌でも想像したくないのに…、優しい笑顔を見せてくれた母の最期が脳裏をよぎる。
即死状態だった母とはお別れの時間も与えられず、突然の電話で死を告げられたから。
幸せがまたひとつ増えると判明した瞬間、どうして貴方が苦しんでいるの…?