アヤカ先輩とひとつ屋根の下
「……大きくなったわね」

母さんはぽつりと呟いた。

『おう……』

「ふふっ」

俺の返事に、母さんは優しい笑みを浮かべた。
いつもは見せないような表情に、なんだか無性に恥ずかしくなった俺は、茶碗によそわれた白米を口にかきこんだ。


一応言っておこう、俺はマザコンではない。


「あの人が逝って、もう11年だものね」

『……ガキの頃だし、遊んでもらったりとか…もうあんまり記憶ねぇよ』


俺の家は母子家庭だ。

父さんは俺が6歳の時に死んだ。
家族3人で動物園に行った帰り、駅のホームで線路に落ちた子どもを助け、父さんは間に合わず、ホームに入ってきた電車と衝突して死んだ。


「そう。あのね、郁斗……」


記憶に残ってない、なんて嘘だ。

毎日一緒に風呂に入ったこと、休みの日は一緒に公園でバスケしたこと、母さんの誕生日に一緒にカレーライスを作ったこと、今もまだ覚えてる。


でも、

「母さん、そろそろ秀治さんと一緒になろうと思うの」

ここ1年、彼氏ができて嬉しそうに話す母さんを見ていると、本当のことは言えなかった。

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