【企画・短編】瞬きさえも
樋野が口ごもっていると、
棗の携帯が鳴った。
滅多に鳴らない携帯は
案の定瑠璃からの
メールを知らせるものだった。
「…だよ」
「ん?」
「だから、悲鳴上げて走って
逃げたんだよ!俺は変質者か」
玲が声を立てて笑い出す。
それを見ながら
棗は溜め息を吐いた。
「帰るわね、わたし」
一言もそんな事は
書いてなかったが
おそらく家に来るであろう、
友人を迎える為に
棗は入ってきたばかりの
生徒会室の扉を開けた。
廊下に吹き込む夏の風は
相変わらず暑かったが、
柊においしい紅茶を
入れてもらおう。
そんなことを考えながら
棗は廊下をゆっくりと
歩き出した。