【企画・短編】瞬きさえも



樋野が口ごもっていると、
棗の携帯が鳴った。

滅多に鳴らない携帯は
案の定瑠璃からの
メールを知らせるものだった。

「…だよ」

「ん?」

「だから、悲鳴上げて走って
逃げたんだよ!俺は変質者か」

玲が声を立てて笑い出す。

それを見ながら
棗は溜め息を吐いた。

「帰るわね、わたし」

一言もそんな事は
書いてなかったが
おそらく家に来るであろう、
友人を迎える為に
棗は入ってきたばかりの
生徒会室の扉を開けた。


廊下に吹き込む夏の風は
相変わらず暑かったが、

柊においしい紅茶を
入れてもらおう。

そんなことを考えながら
棗は廊下をゆっくりと
歩き出した。








< 28 / 29 >

この作品をシェア

pagetop