短編-ワガママな恋。〜始まりのあの日〜
「だ、ダメ!」
その気持ちを振り払うように、あたしは幸正を突き飛ばした。
「う、うわっ。」
幸正がよろめき、近くの水槽に突っ込む。
「あ、あー!すいません!」
水槽を頭からかぶり、ビショビショになってしまった幸正。
近くには、水槽に入っていた金魚が、ピチピチ音を立てながら動いている。
「お前、嫌がらせか?」
水で濡れた髪を掻き揚げながら、あたしを睨む幸正。
「あ、濡れた野々村先輩も格好いい!」
そんな幸正をよそに、はしゃぐあたし。
「はー、何なんだよまったく。」
そう言って幸正は立ち上がると、机の上にあるバケツに水を入れ、まだピチピチ跳ねる金魚を、そっとバケツの中へ入れた。
「野々村先輩って…。」
「ん?」
今度は水槽に水を入れながら、幸正は言う。
「自分より先に、金魚なの?」