帰って来たお母さん
お母さん!

 埒(らち)が明かない!


 私は頃合いを見計らって、家に帰った。


 帰宅したのは深夜になってからだっけ。


 お父さんはノンビリとテレビを観ている。


「遅かったな? お母さんはとっくに帰って来たと言うのに」


「お母さん、いつ帰って来たの?」


「お前が電話して来る10分前だ」


「どうやって、帰って来たのかな? 大学病院から家まで、クルマでも15分以上かかるのよ」


「タクシーに乗って来たって言ってたな」


「お金は? タクシー代はどうしたの?」


「家に帰って来てから払ったけど」


「ふーん」


 私は疑いの眼差しでお父さんを見つめた。


 お母さんが倒れたショックでお父さん、幻覚を見ているかもしれない。


「どうしたんだ里枝子? 恐い顔して」


「お母さんはね、救急車で運ばれた後はずっと検査を受けていたのよ。検査の結果、脳内出血で意識は完全に戻らないの」


「冗談だろう? お母さんはピンピンになって帰って来たぞ」


「そうかしら!? 今も、病院の集中治療室にいるわよ。二日市の叔父さんが、1人で付きっきりだから」

< 9 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop