帰って来たお母さん
お母さん!
埒(らち)が明かない!
私は頃合いを見計らって、家に帰った。
帰宅したのは深夜になってからだっけ。
お父さんはノンビリとテレビを観ている。
「遅かったな? お母さんはとっくに帰って来たと言うのに」
「お母さん、いつ帰って来たの?」
「お前が電話して来る10分前だ」
「どうやって、帰って来たのかな? 大学病院から家まで、クルマでも15分以上かかるのよ」
「タクシーに乗って来たって言ってたな」
「お金は? タクシー代はどうしたの?」
「家に帰って来てから払ったけど」
「ふーん」
私は疑いの眼差しでお父さんを見つめた。
お母さんが倒れたショックでお父さん、幻覚を見ているかもしれない。
「どうしたんだ里枝子? 恐い顔して」
「お母さんはね、救急車で運ばれた後はずっと検査を受けていたのよ。検査の結果、脳内出血で意識は完全に戻らないの」
「冗談だろう? お母さんはピンピンになって帰って来たぞ」
「そうかしら!? 今も、病院の集中治療室にいるわよ。二日市の叔父さんが、1人で付きっきりだから」