愛音-あいおと・短編
それから一時間経っただろうか、

変わらず二人とも黙ったままだった。

舞は愛らしい笑顔を振りまきながら二人の間をいったりきたりしている。

「別れるか、終わりだな。」

良平はふたりの静寂を静かに破った。

「いやーっ。」
「嫌って、勝手な事言ってんじゃねえよ。まっ、そんな奴だからこんな事すんのか・・フッ・。」


泣きじゃくる早紀を嘲笑うかのように、良平は呆れながら言った。

結局、この問題は"女の前に人間であり母親""相手が悪ければ何をしても構わないのか?"という言葉で終わってしまった。

その夜、良平のベッドに早紀が泣きながら寄り添ってきた。

良平は静かにそれを受け入れた。

しかし、良平のには相手の男しか思い浮かばず、それは苦痛のほか何ものでもなかった。

次の日、良平は会社を休み、舞を連れ近所の公園まで散歩に出た。

なぜか、ただ歩いてるだけで良平の瞳は涙で一杯になった。

「なんで、なんで・・・」

早紀の行動が理解出来ず、許す事も出来ず、悔しさだけがこみ上げた。

公園について、砂場で遊ぶ舞をただ見つめていた。

ふと目をやると、せっせと蟻たちがなにかを運んでいた。

色んな邪魔をされても、どんな障害があっても・・・。

近くには踏まれても、固い土でも必死に輝かしい花を咲かせる名も無い花がある。

なぜか良平は普段、気にもしないものが愛おしく思えた。
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