愛音-あいおと・短編
愛育
「えっ。」

良平はそんな早紀の言葉に歩く事が出来なくなった。

振り返った良平に、きっとここ何日か寝てないのか、目を真っ赤にした早紀がただ静かに立っていた。

「な何言ってんだ、分かってるのか?俺だぞ、この俺!いいかげんだし、軽いし、何より彼女だっているし・・・」

良平は早紀の顔を覗き込むように言った。

「分かってる。でも決めたの、あなたがいいって、あの夜私、多分あなたに抱いて欲しかったのかも・・彼とケンカして・・・あなたの言うように、私あなたにひどい事を・・・だから・・・あなたがいい!」

早紀は時折、赤くなりながら、そして最後は力強く良平の顔をじっと見つめながら言った。

「何いってんだよ!何勝手な事いってんだよ!・・・もう、相変わらず勝手だよ!・・・ったく、好きにしろよ!」

良平はハッキリ言うのは慣れてても、ハッキリ言われるのは慣れてなく、照れ隠しでそう言ってしまった、深い後悔を感じながら・・・。

そして、早紀を振り払うようにその場を走り去った。
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