君を待つため
俺のあの子
「吉井さんが店の物とるなんてね」
本屋のトイレの横のバックルームから低い女の声が聞こえた。
「代金は払ってもらうわよ。警察には黙っておいてあげるから、明日から来なくていいわよ。」
冷たい女の声がひっそりと聞こえた。
バックルームから
あの子が出てきた。
何事もなかったかのように
涼しい顔して
本屋のエプロンを外し
さっさと店を出てしまった。
俺は彼女を追いかけた。
声をかけることはなかったけど。
彼女は近くのコンビニで
コーヒーを買い、入り口ちかくでタバコを吸った。
ぼぅっと一点を見つめるように。
あの子の長い髪と唇の赤いグロスがきらきらして見えた。
あの子は胸に付いた
「吉井」というネームプレートを外して、ゴミ箱に捨てた。
タバコを吸い終えると
携帯をいじりながら雑踏へ消えていった。
バイトはクビになったんだね。
なぜ万引きなんかしたの?
でも君は悪くないよ。
何か魔がさしたんでしょ。
俺が許してあげるから
君は悪くないよ。