キミ色ヘブン
「ちょっと待ってください。先生、私その人がさっきグラウンドを走って来るのを見ました。その人、本当に遅刻しただけです」

私の声に彼の首根っこを掴んだまま振り返った黒ブチ眼鏡の先生は一瞬戸惑って。

「式が終わるちょっと前に走って来るのを私見たんです。校舎を見上げた時の彼の顔も見ました。見間違いもありません。だから――」

「ああ、確かにその黄色は遅刻ですよ、若林先生。僕も見てましたから」

もっと歳のいったパンチパーマに淡い茶色の眼鏡をかけた先生が通りがかり、私の言葉を遮った。

そしてやんわりと若林先生の手から金髪の彼を開放してくれた。

『ま、どっちにしても遅刻の罰はあるけどな~』と黄色の頭を小突きながら。その声にこの騒ぎの終焉を感じた。

それと同時に今度は怖くなる。なぜなら周りには小さな人だかりが出来ていたから。

『あれ、誰?』『代表挨拶した女?』『優等生じゃん』聞えてくるのはそんな声だけだった。
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