キミ色ヘブン
ああ、本当にどうしてくれよう。この状況。

人生の岐路で失敗を繰り返す私に

「白川さん、これって何?」

と無邪気に訊いて来る中山君。

放課後の第二美術室で、私の人生に岩のごとく立ちはだかる大きな体が私の絵の具箱を覗き込んでいた。

イーゼルに油絵のキャンバスを立てながら適当にあしらう。

「……油つぼ。テレピン油が入ってるの。それと油絵の具を混ぜて描くの」

「ふーん。開けていい?」

「どうぞ」

なんか、ベタベタするね?なんて言葉の途中でカポッと小さな音がした。

臭いって言うんだろうな。汚いって思ってるんだろうな。

「……あ……なんかそそられる」

「…………」

……変態だ。なんだ、その卑猥な表現は。

「やっぱ白川さんもそう?」

絶対に変態だ。言ってる意味を理解したくない。

ドン引きしている私なんてお構いなしで中山君は続ける。

「やっぱ創作意欲、そそられちゃう?」

「……創作意欲?」

そっちだったの?なんなの、ややこしい。

「……まぁ」

小さなため息をついて、妙に力の入ってしまった肩をグルッと回して筆を手に取った。

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