キミ色ヘブン
「てかまだ来てないし」

むしむしとした澱んだ空気が漂う第二美術室の窓を端から開けていく。途端に風が吹き抜けて、私の汗を優しく撫でていった。

ちょっと来てなかっただけだけど、懐かしい匂いが私を包み込む。

風に流されていく油絵の具の重厚な匂いに深呼吸をした時、ガタガタとドアが鳴った。

振り返れば、予想通りの三上さん。

ここに来るまでは『色々言われるの嫌だな。どうやって言い逃れしようかな。出来るかな』とそればかりが頭をグルグルと巡っていた。

だけど、ここの空気を吸った時、なぜか潔くしようって思えた。

それはたぶんこの美術室で過ごした私は、そりゃたまにはひねくれたり間違ったりもしたけれど、それでも一番素の自分に近かったから。

それにもう一つの大きな理由は、楽になりたかったから。

言いたいこと、言っちゃってよ。そんな気分だった。
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