保存用
◆忘れものとお楽しみ(陰陽師 二次)【田舎犬 1周年記念小説】

緑の葉が揺れて小鳥がさえずりそうな、そんな清々しい朝。
昨夜泊まっていった博雅を見送り、部屋に戻った晴明は、早く仕事を片付けてしまおうと書物を開いていた。
そこに、

「晴明っ!」

慌ただしい足音と共に、再び現れた博雅。
切羽詰まったようなその表情を目にした晴明は、無意識の内に眉をひそめていた。

「なんだ」

鬼が出たか。
それとも別の何かか。
どちらでも、そう大差はない。

そんなことを考えながら聞いた晴明に、博雅は言った。

「おれの笛を、葉二を見なかったか?」

「………は?」

予想だにしない博雅の問いに、晴明は目を丸くした。

「ないんだ。ずっと懐に入れていたのに」

そう言って、懐を探る博雅。
その表情は真剣そのもの。

「…ふっ」

そんな博雅を見て止まっていた晴明は、事の重大さと表情の違いについ笑ってしまった。

「晴明よ、何がおかしい」

明らかにむっとした表情をする博雅。
博雅にとってこれは重大な事なのだから、当然の反応だ。
しかし、今の晴明にとっては笑いの種にしかならない。

「…ふふっ、はははっ」

「晴明!」

「ああ…すまない。博雅、葉二はおそらく寝室にある」


< 10 / 42 >

この作品をシェア

pagetop