保存用

笑いをこらえた晴明の台詞に、今度は博雅が目を丸くした。

「なに?本当か」

「ああ。昨日、枕元に置いてあったのを忘れていったのだろう」

博雅はそれを思い出したのか少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
しかし、すぐに安堵の表情に変わる。

「そうか。よかった」

「ああ、取ってくるといい。必要なのだろう?」

「ああ」

そう言うと急ぎ足で寝室に向かう博雅。
晴明から顔は見えなかったが、足音が軽く、博雅の心境を示していた。
そんな博雅を見送った晴明は、書物に視線を戻した。
そして何かを思い出したように、ふと空を見上げる。

そういえば、今日は満月だったな。
久々に1曲吹いてもらおうか。
お返しに、酒と肴は良いものを用意して。
ああ、最近頑張っているという歌の話でもいい。
上達したのかどうか。
その場で読んでもらうのもいいかもしれない。

「…夜まで、長いな」

息を吐き出すように、ごく自然に呟いた晴明。
そしてふっと笑って、書物を読み始めた。





end.

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