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しかし、晴明の機嫌は直りません。
ムスッとしたまま、中断してしまった囲碁を続けます。
先程とは打って変わって空気が重くなり、博雅は焦りました。
晴明の顔も見れず、碁盤に目をさまよわせます。
どうして怒っているのか分からないが、このままでは晴明に嫌われてしまうかもしれない。
そう思い至った博雅は、晴明に怒ってる理由を教えてもらおうと思いました。
けれど、怖くて晴明の顔は見れません。
仕方がないので少し下の、首元を見ました。
そのとき、ふと気が付きました。
晴明の単(ひとえ)が、いつもより濃い青なのです。
「晴明、その単はいつもと色が違うな。仕立てたばかりか?」
博雅の言葉に晴明は一瞬だけ止まり、自分の格好を見下ろしました。
「そうだ。今朝な…」
そう言って、またちらりと博雅の顔を見ました。
そのとき博雅はようやく、晴明が言ってほしい事が分かりました。
「そうか。似合ってるぞ」
期待していた言葉に晴明は一瞬顔を綻ばせ、下を向いて言いました。
心なしか顔が赤くなっています。
「…今更遅い」
その反応に、博雅も頬を緩ませながら言います。
「ああ、すまないな。今回は大目に見てくれ」
「ああ。…囲碁を続けるぞ」
晴明は、まだ少し赤い頬を誤魔化すように、パチンと碁石を置きました。
end.