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◆ふいうち(陰陽師 二次)
ある日の夕暮れ時のこと。
同僚に頼まれごとをされた博雅は、晴明のもとを訪れました。
「晴明。…おい、晴明!」
しかし、何度呼び掛けても返事がありません。
いつも出てくる式神も、何故だか今日は出てきません。
出掛けているのだろうか…
そう思いながら何気なく門に触れると、ギイィー…っと音を立てて開いてしまいました。
「……晴明…?は、入るぞ…?」
門が開いているなら留守にしているわけではないだろう。
そう考えた博雅は、少し悪いことをしている気になりながら、中に入りました。
博雅がいつもの場所に行くと、晴明はそこで巻物や書物を広げたまま、眠っていました。
「やはりここにいたか」
そう言って、晴明を起こそうと簀の子に上がります。
そのまま肩を揺すろうと手を置いたとき、ふと思いました。
晴明は俺が来るときはいつも出迎えてくれるが、今日は寝ている。
もしかしたら凄く疲れているのかもしれない。
起こしては可哀想だ。
「…今日はもう帰るよ」
寝ている晴明にそう言うと、肩からすっと手を離して立ち上がり、去ろうとします。
しかし、数歩進んだところで歩みが止まりました。
そして晴明の前にもどってきてしゃがみ、両肩を掴むと、なにか小さく呟いて晴明の頬に口付けました。
頬から唇が離れる瞬間、晴明が目を瞑ったまま言いました。
「なんだ、口にはしてくれないのか」