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その声に驚いた博雅は、晴明の肩から手を離してしまい、尻餅を付きました。

「っ、せ、晴明っ!!お、起きていたのかっ!?」

「いや、寝ていたさ。今起きた。誰かさんのおかげでな」

晴明が口元に意地悪な笑みを浮かべながら、博雅を見ます。
その視線で、先ほど自分がしたことを思い出し、博雅は顔が熱くなりました。

「うっ、いやっ、その…っ、……すまん」

博雅はいろんな感情が混ざった、なんとも言えない気持ちを誤魔化すように、下を向いてもごもごと謝りました。
そんな博雅を晴明はとても愛おしそうに見て、立ち上がり言いました。

「構わんさ。なにか用があったのだろう?酒でも飲みながら聞こう」

「あ、ああ」

博雅は、まだ少し気まずそうに顔を下に向けたまま返事をし、立ち上がろうとしました。
すると、晴明が博雅の肩に手を置き、言いました。

「博雅」

「なん…」

だ、と続くはずのその台詞は、晴明の口内へ消えてしまいました。
突然の出来事に動けずにいる博雅に、晴明は優しく笑いながら言いました。

「お前は座っていろ。俺が酒の用意をしてくる」

晴明はそのまま背を向けて、部屋に行ってしまいました。

後に残された博雅は、先ほどとは比べものにならないほど顔を真っ赤にして座り込んでいました。

綺麗な黄昏色に染まった藤の花だけが、その様子を静かに見ていました。





end.

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