保存用

あいつは何か違っていた。
大袈裟だけれど俺が唯一、興味を持った人間。
まだ会って間もなかった。
もっとあいつのことを知りたかった。
それだけが少し、残念だった。

「…後悔など、していない」

博雅を守れた。
だから後悔ではなく、残念なのだ。
少し気がかりなだけだ。

そう自分に言い聞かせて、晴明は先を急ぐように歩き出した。


・―・―・―・―・


…ここが三途の川か。

ようやく着いた川岸には、鬼がいた。
どうやら船の整備をしているようだ。
近付くと鬼はこちらに気付き、声をかけてきた。

「お前さん、何者だい?」

とても低くしゃがれた声。
聞き取りづらいが、人間の言葉だ。

「…ただの死人だが」

「…いや、まだ半分しか死んどらんよ」

眉間に眉を寄せて言う鬼。

「川のこっち側にいるから、とでも?」

晴明が馬鹿にするように笑う。
すると、鬼も同じように笑って言った。

「そりゃあ面白い。じゃあ俺は向こう岸へ行く度に、死んでることになるな」

そんな鬼の返答に少し驚きつつ、晴明は言った。

「…それで?俺が死んでいないとは?」

「さてね。詳しくは分からんよ」

そう言って、肩をすくめるような動作をする鬼。
なんだか鬼にしては人間らしい。
こちらの鬼みんなこうなのだろうか。

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