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「どうする?未練があるならまだ戻れるが、今死ぬか?」
「…」
以前の晴明なら、死ぬかと問われればいいだろうと答えただろう。
だが今は躊躇してしまう。
本当に死んでしまってもいいのか、と。
「さあ、どうするんだ?」
鬼に催促され、口を開いたとき――
――………
かすかに、笛の音が聞こえた。
その音色は、ここ最近聞き慣れたもので。
――…………
力強く、けれどどこか寂しげに、晴明の耳に残る。
「……博、雅…?」
それは晴明を呼び戻すように、呼びかけてきて。
「おい、どうするのか早く決めろ」
鬼の声に消された。
「…ああ」
けれど、もう晴明に迷いはなかった。
「俺はまだ生きる」
「…そうか。なら早くここを離れろ」
「ああ」
晴明は鬼に背を向けて歩き出そうとして止まり、顔だけ向けて鬼に言う。
「お前は変わった鬼だな」
「そう見えるのは、お前さんが変わってるからだ」
鬼はニヤリと笑って言った。
晴明はそれを聞くと、ふっと笑って歩き出した。