保存用
◆見えない姿(陰陽師 二次)

さよならと、声が聞こえた。
静かに、とても悲しげに。
けれど、どこか幸せそうな、そんな声で。

「……」

この世で1番愛しいと、そう思う声だったから。
行くなとは、言えなかった。
だからといって、見送る覚悟などもなくて。

「…すまない、晴明…っ」

出てったあとに、呟いた。
昔から掴みどころがなくて、急に消えてしまってもおかしくないと、そう思っていたけれど。
ずっと隣に居てくれてたから。
ずっと助けてくれていたから。
それが当たり前になっていた。
だから、こうなることを予想出来ていても認めたくなくて。
ずっと見ないふりをしていた。

もう、戻ってこない。

その事実を受け入れるには、まだ早すぎて。
でもどこかで分かってて。
全て忘れられれば楽だけれど。
忘れることなんて出来るはずなくて。

「おれは…、どうすればいいのだろう…」

なあ、晴明…
もうずっと…、耳鳴りが止まないよ





end.

< 32 / 42 >

この作品をシェア

pagetop