保存用
いつもはない事に驚いた私は、進めていた足を止めてしまった。
ヤバ…ッ
そう思ったが、止めた足を動かす気にはなれなかった。
「本、借りないの?」
先輩が話かけてきたから。
「えっ…あ、はい……」
嬉しさと恥ずかしさと驚きが混じってすぐに返事もできない。
「読みたい本がないなら希望して。まだ入れられると思うから」
頭の中で何かがぐるぐる回ってて、それがとっても重く、熱くなっていく。
「は、はい…あの、し、失礼しました…っ」
胸が苦しくて、目の奥が熱くて、意味もなく泣きそうで。
それに堪えきれなくなった私は、早口でそう言って駆け出した。
・―・―・―・
「はっ…、はあっ……」
教室まで走って、やっと止まれた。
幸いなことに、教室には誰もいなかった。
走ったからかは分からないけど、頭がガンガン痛んで、心臓がバクバクいって、目の奥が熱い。
近くの椅子に倒れ込むように座って、息を整える。
落ち着いてきた私の頭に浮かんだのは、先輩の顔。
声……意外と高かったなぁ…
顔もそんなにかっこ良くないし…
それに結構無愛想だった。
終始無表情だったし、時々私から目をそらして本に向けてた。
前に誰かが止めておいたほうがいいって言ってたのも分かる気がする。
でも……
好きなんだから…仕方ないじゃん、ねぇ……?
自分の机に置いてあった鞄を掴み、教室を出る。
廊下をゆっくり歩きながら私は思う、いつものように。
明日もまた、会えるといいな……
end.