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◆猫と姫

「姫様ー、どこですかー?」

ある日の昼下がりのこと。
二条家に仕える女房の志摩(しま)は、二条家直系の三女である倥(こう)を探していた。

食事を終えた倥に、琴の稽古をつけようと思って東対(ひがしのたい)に行ったのだが、倥はどこにもいなかったのだ。
近くにいた女房に聞いてみたところ、つい先ほど兄上のところに行くと言って出ていったとのこと。

しかし、倥の兄である朝成(ともなり)のところには倥はいなかった。


寝殿にも北対(きたのたい)にもいないし……
一体どこに行ったのかしら……


もともと活動的で元気な姫なので、こんなことは日常茶飯事。
数え歳で六つになり、大分大きくなった、とはいえまだまだ子供。
どこかで遊んでいるだけだと分かっていても、気は休まらない。

「倥姫様ー!どこにいらっしゃるんですー?琴の稽古の時間ですよー?」

そう呼び掛けながら中庭の前の簀子(すのこ)を歩いていると、中庭の奥の方からカサリと小さな音がした。


まさか……


志摩はそのまま中庭に降りて、音のした方に歩いていった。
そこには膝を抱えて小さく座っている倥がいた。

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