保存用

志摩は、倥のその言葉に驚いたように少し目を見開いた。
しかし、すぐに慈しむような優しい目をして小さく言った。

「ええ……そうですね」

「……」

「……」

少しの沈黙。

それを破ったのは、倥だった。

「志摩、お父様は今屋敷にいらっしゃる?」

「景成(かげなり)様ですか?ええ、いらっしゃいますよ」

倥は志摩の言葉を聞くとパッと顔を上げて、強い目で言った。

「では私、お父様にお願いしてくる!この子を飼わせてくださいって!」

志摩はじっと倥の目を見た。
倥は顔が少し強張っているが、先ほどの強い目は変わらず、志摩からも目をそらさない。

しばらくして、志摩がふっと息を吐くと少し笑ってこう言った。

「…分かりました。では、寝殿へ参りましょう」

志摩がそう言うと、倥の強張っていた顔が安心したように緩んだ。
そして満面の笑みを浮かべて言った。

「うん!」

そのまま早足で歩き出す倥。
倥のその変わりように、まだまだ子供だなぁと思いながら倥の後を追う志摩。

倥と志摩が寝殿へ行ってしまい、静かになった中庭。

木の根元で寝ていた白い子猫がぱたりと一回、尻尾を揺らした。





end.

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