大富豪
俺には、もうすぐ小学4年生になる娘がいる。妻もいる。家は金に困っているわけでもないし、俺がギャンブルにはまったわけでもない。

俺は会社にはめられたんだ。

『新製品の製作に、あと20万足りない』、そう社長に言われ、俺は自腹で10万円は準備した。残りの10万円は、会社の名前で借りる、そう社長は言っていた。しかし、後に会社は倒産し、残った借金は、俺のところに舞い込んできたんだ。土壇場で社長が俺の名義にすり替え、本人はとっとと逃げやがったんだ。

そこで、その借金を払うために、闇金に手を出してしまった。すぐ返せると思っていたんだ…。
顔写真も撮られ、住所もばれている。もう逃げることはできなかった。


暫く、カードを見つめていた斉藤だったが、俯いたまま小さく「パス」と言った。すると、市原が震えながら2を出したのだ。

「何?!」
声を出したのは藤川だ。
「てめぇ…正気か?」
藤川が市原の顔を覗き込む。
「僕だって、家族の命がかかってるんですよ」
市原は目を合わさずに、早口で答えた。
まあいいといった風に、藤川は俺の顔を見た。
出せるカードはあるか?
つまり、ジョーカーを持ってるか?ということだ。
俺は目を逸らし、場のカードを手で流した。

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