あの雨の日、きみの想いに涙した。




そして電車に乗って地元の香月駅に着いた。改札に向かう階段の途中で聞き覚えのある声に呼び止められた。


「冴木くん」

振り返ると青木がいた。

「同じ電車だったんだね」

青木はニコッと笑って俺の隣に並ぶ。


この時間帯は人が多くて、電車を降りた改札口でも人が溢れていた。青木は人混みにスッポリと埋まってしまうほどのチビ。


「……あのさ、今日学校でなんか言われた?」

〝昨日冴木が女と一緒に帰ってた〟
そんな噂が流れたから少しだけ気になっていた。


「えーなにが?」

「べつに……なにも言われてないならいい」

俺たちは同時に改札を抜けた。つまり一緒にいた女が青木だってバレなかったってことか。

……ちょっとホッとした。俺と一緒に噂の種にされたらなにを言われるかわからないから。


「一緒に帰るだけで噂になるなら、今こうして話してることも噂になるかもね」

「……え?」

「私他人からどう思われてようが興味ないから。じゃーね」

青木は笑って俺と逆方向に歩いて行ってしまった。


ってかそれ、俺が昨日言った言葉なんだけど。

……青木はやっぱりヘンな女だ。チビのくせに度胸があって周りに流されないし、俺に偏見を持たない珍しいヤツ。

それで……いつも俺の隣に自然と並ぶ。それが不思議と嫌じゃなかった。
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