あの雨の日、きみの想いに涙した。




電話の相手は老人ホームの職員からだった。

ばあちゃんが死んだ事実と葬式やこれからのことを丁寧に説明してくれた。うちは成人してる人もいなければ葬式をやる金もない。だけど今の老人ホームは死後のことも色々やってくれるらしい。


そういえば物忘れがひどくなったばあちゃんだけど、家を離れる前日にこう言ってた。

――『由希には迷惑かけないからね』

もしかしたらばあちゃんは葬式やその後の世話もやってくれるところを自分から選んでいたのかもしれない。


迷惑なんて俺のほうが散々かけたっていうのに。俺には知識もないし、老人ホームの職員が言っている葬儀や通夜についての言葉もあまり理解できない。

それでもばあちゃんは俺の家族なわけで、そういうことは俺がやらなきゃいけないような気がした。

でもガキの俺になにかができるわけもなくて、ただ大人に任せるしかないのが無性に悔しい。


そういえば、もうずっとばあちゃんがいた老人ホームに行ってなかったな。

認知症で俺のことなんて忘れてしまったかもしれないけど、それでもたくさん顔を見せてあげればよかった。

今さらそんなことを思っても遅いけど。


ばあちゃんが死んで俺の家族はだれもいなくなった。この家に帰ってくる人はもういない。

今までと変わらないと言ったらそうだけど、帰ってこれないのと帰ってこないの意味は違う。


もう本当に……本当にこの家にはだれも帰ってこないんだ。

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