あの雨の日、きみの想いに涙した。




寂しさがじわじわと込み上げる中で、また電話からベルの音が聞こえてきた。老人ホームからの言い忘れかと思って俺はすぐに電話に出た。

俺が言葉を発する前に電話の向こう側の声がスピーカーから響く。



『久しぶりだな』

ドクン……ッ……。


低い男の声に心臓が大きく鼓動する。


ドクン……ドクンドクンッ。

完全な不整脈。

ばあちゃんが死んだと言われた時よりも激しい動揺だった。


ドクン……ドクンドクンドクン。

心臓が壊れてしまうほどの音だった。それは二度と、死んでも聞きたくなかった声。


拳に自然と力が入っていた。声を聞いただけでこんなにも沸き上がってくる怒りと憎悪。


電話の相手は世界で一番許せなくて、殺したいほど憎い男からだった。

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