あの雨の日、きみの想いに涙した。
『お。当たりか?当たりだろ?俺は記憶力だけは昔からいいんだよ』
記憶力が昔からいい?それなら自分がしてきた全てのことを謝罪しろ。なにもなかったかのようにヘラヘラしやがって。まあ、謝罪なんかされても一生許さねーけどな。
『お前16ぐらいなら女にモテんだろ?』
『………』
『昔っからお前は俺に似てたからな。女が言い寄ってこないわけねーよな』
ドクン……。
ゲラゲラと高笑いしている男の声を聞きながら、またズシリと鉛のようなものが背中にのし掛かった。
〝昔っからお前は俺に似てたから〟
自覚していたとはいえ、この男に言われるとなにもかも自分のことを否定したくなる。
グチャッ……カラカラカーン。
ビール缶を潰してゴミ箱かどこかに投げ捨てる音が受話器から聞こえた。そしてすぐに次の缶を開ける音がして、それをまた勢いよく飲み干して男は気持ちよさそうな息をはく。
『声も俺にそっくりだしな。どうだ?久しぶりに会ってみる……』
『うるせーよ』
その言葉を強く遮った。
もうこんなヤツの話を聞いていられなかった。
足の爪先からジワジワと込み上げてきたものはついに俺の全身を支配して、なんともいえない熱いものは冷めるどころか増すばかり。
〝うるせーよ〟
そう言ったあと、ニヤリと笑う男の顔が頭に浮かんで、熱いものは頭の天辺に達していた。