あの雨の日、きみの想いに涙した。
なにか言わないと……。
なにか言わないと負けだ。俺はまた負ける。またこの男に……なにか言わなければ……。
『なあ由希。もうお互い家族はいないけど俺とお前は親子だ。違うか?』
なにか言わなきゃ……。
『だって俺たちは血が繋がってるんだから』
ドクン……。
言いたかった全ての言葉が心臓の音とともに消えた。
『まあ、口出ししてくるヤツもいねーし、そんなに急がなくてもいいんだけどな。また後々連絡すっからよ』
そう言って男は電話を一方的に切った。
プープーと耳元で繰り返される保留音。あれだけ切りたかった電話を俺はすぐに置かなかった。
プープープー……。永遠に鳴ってる音の中で、俺は1ミリも動けずに、まるで時間が止まったかのように立ちつくしていた。