あの雨の日、きみの想いに涙した。
体が1ミリたりとも動かない。額からはまだ血が流れていた。
さすがにヤバいかもしれない。そう思った時、頬に冷たいものが当たって、それは次第に雨へと変わっていく。
空を見上げると大粒の滴が俺を攻撃するように降ってきて、前髪から血と混ざり合った雨が垂れてくる。
体は動かないし全身が痛いし、寒いし、冷たい。
俺……ここで死ぬのかも。
ドクン、ドクンと心臓の音はまだでかい。それでもいいか。死んだってだれも悲しまないしどうせ今もひとりだ。
なんで俺はこんな思いをしながら今まで生き続けてきたんだろうか。死ぬつもりならもうとっくに死んでいる。
自ら死を選んでもおかしくないほどの人生だった。
それでも……俺は生きてきた。なんで?どうして?
だってまだなにも見ていないから。
〝私はね、冴木由希がどんな人間なのか知りたいだけ〟
俺だって知りたい。
〝どんな顔で笑うのか、どんな顔で悲しむのか〟
俺だって見たい。俺がどんな人間でどんな感情を持ってるのか知りたい。
俺は微かに動く左手をズボンのポケットに入れた。そこからスッと財布を出して慣れない左手で〝あるもの〟を触る。
それを雨で濡れないように気をつけながら、左手をまた逆ポケットへと伸ばしてスマホを出した。ただでさえ感覚がない手で白い紙切れを見つめながらゆっくりとスマホの番号を押していく。