あの雨の日、きみの想いに涙した。
「なんか着ぐるみ着てるみたい」
「き、着ぐるみ……?」
「あるじゃん。テーマパークとかに」
すると青木はムスッとした顔をして、なんだか俺は怒らせるようなことを言ったらしいけど、それもちょっとわかんない。
青木は引きずりそうなズボンを持ち上げながら、テーブルに広げられてある包帯や消毒液を片づけはじめた。
そんな青木を見ながら俺はなにか言わなきゃと思った。
たぶん長い言葉はいらない。
〝ありがとう〟たったの5文字を言わなきゃいけないのに、お礼なんて今まで言ったことのない俺は素直にその言葉が出てこない。
「あのさ……」
「あ!そういえばコンビニで適当に食べものも買ってきたよ」
俺は完全に言うタイミングを逃してしまった。カサカサと袋を漁る青木の手には弁当ではなく、なぜかご飯と卵。
「お粥作ってあげるから台所借りていい?」
お……お粥?本当に青木には色々ビックリさせられる。
「お粥嫌い……?」
俺がなんの反応もしないから不安になったみたいだ。
「嫌いじゃないけど……」
「よかった。口の中が切れてて痛いかもしれないけど、なにか食べなきゃね」
青木は嬉しそうに廊下の突き当たりにある台所に向かっていく。なんでそんなに笑顔なのか。俺の都合で付き合わせてるのに。
「あ、あのさ……」
俺の部屋を出ていく青木を寸前で呼び止めた。
「ん?」
「……あ……ありがとう」
初めて言ったお礼はぎこちなかった。青木は「うん」とまた笑って歩き出そうとする青木にさっきの言葉の続きを言う。
「部屋のドアは閉めなくていいから」
たぶん青木はこの言葉の意味を理解していた。俺は青木のほうを見なかったけど、きっとまた笑っていたと思う。