あの雨の日、きみの想いに涙した。



だから一度は断ったのに。青木がそっと背中の〝ある部分〟に手を添える。その指先がわずかに震えているのがわかった。


「そんなことをするヤツはこの世にひとりしかいないよ」

俺の背中にあったのはタバコを押し付けられた跡。たしか記憶では酔った父親に何回かされたことがあった。


ジュッと熱さを通り越した痛み。あの皮膚が焦げる匂いは今でもはっきりと覚えてる。

でも当時の俺は長時間殴って憂さ晴らしをされるなら、一瞬で終わるタバコのほうがラクだと思ってたぐらい。

一瞬で終わるのに跡はこうして一生残ってしまうんだけど。


……ポター、ポタ……。

背中にタオルではない違う暖かいものが当たる。


「なんで泣くの?」

俺は背中を向けたまま聞いた。


「悲しいから……。痛いから……許せないから」

青木はもう一度タバコの跡を手でなぞった。その柔らかい指先はくすぐったいというより、優しい。


たしかに痛かった。でも本当の痛かったのは目に見える場所ではなく目に見えない場所。

今だってその傷は癒えやしない。

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