あの雨の日、きみの想いに涙した。



支度をし終わると青木は自然と俺の体に触れて怪我の具合を見た。

「まだ膿んでるところがあるね。Yシャツに付いちゃうからガーゼだけ当てとくね」

そう言うと肘や足に消毒液を吹きかけた。

「あと顔にも絆創膏貼るね。目立つかもしれないけど手で触ったりすると治りが遅くなるから」

「痛っ」

「じっとして」

青木が顔に絆創膏を貼っている間、その距離が近くて俺は無意味に床を見つめていた。なんだか心臓が知らない動きをする。


「はい、できた」

さっきまで遅刻だとか言って文句を言ってたくせに、手当てには時間を惜しまなくて丁寧。本当に青木は怒ったり、優しくしたり色んな顔を持つ女だ。そのたびに俺の心は振り回される。

青木が俺のことを駅で待ってたのはスマホを返してもらうためでも朝寝坊を注意しにきたわけでもない。

はじめからこうやって怪我の具合を見るためだってわかってる。



「……俺は青木になにを返せばいい?」

俺の言葉に青木が目を丸くする。


「な、なんにもいらないはナシだから……」

俺は今どんな顔をしてるんだろう?

こんなことを言ってる自分が恥ずかしい。青木はクスッと笑って「考えとく」と答えた。

考えとくって……それもなんだかうまく交わされた気がする。

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