あの雨の日、きみの想いに涙した。



俺は自分で聞いたくせに、内心はなんとも言えない気分になっていた。青木夏月という女は用がなくても用を無理やり作るような女。

そんな青木が雨の日に呼び出してまで話したいことって……?


「あ、あのね……」

青木が口を開いた瞬間、俺は言葉を遮る。


「傘さしながらじゃ落ち着かないから場所変えない?」

俺たちはプールから体育館へと移動した。

もちろん体育館の中には入れないけど学校と体育館を繋ぐ通路には外からでも入れる。そこには屋根もあるし非常口の明かりが微かにあった。


「ここなら雨にも濡れないし座りながらでも話せる」

俺はそう言って傘を閉じた。 

「……それでなに?」

通路の壁に腰かけて、青木の顔を見た。緑色の非常口の明かりのおかげで表情がよく読み取れる。


「……前に冴木くん、私に話してくれたでしょ?自分のこと」

俺は今日みたいに雨が降っていたあの日のことを思い出していた。父親のことや母親のことを青木に打ち明けたあの夜のことを。


「すごく嬉しかった。だから今日は私のことを話そうと思って」

たしかに俺は青木のことをなにも知らない。もっとも少し前までは知ろうともしてなかった。でも今は興味がある。

なんでもいい。些細なことでもいいから聞いてみたい。青木のことなら。

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