あの雨の日、きみの想いに涙した。
俺は目線をスマホから離して、ゆっくりと青木のほうを見た。小さい子どものように安心して眠っている。
本当にこんな日がくるなんてあの時は思わなかったな……。
「……青木なら初対面でも関係ないか」
青木がなんで俺を変えたいと思ってくれたかはわからない。だけど青木の寝顔を見たら理由なんてなんでもいいと思った。
気のせいかさっきよりは顔色がよくになってる気がする。俺は右手を伸ばして青木のオデコに触れようとした。
だけど触れる寸前でやっぱりダメだった。行き場のなくなった右手を戻して、そのまま手のひらを見つめる。
「……なんか触れないんだよな、青木には」
たぶんそれは青木のことが特別よりももっと上。大切に変化してるからだと思う。
俺なんかが青木に触ったら綺麗なものが汚くなっていく気がして。
俺はこの日、一睡もしなかった。いつの間にか外は朝日が昇っていて、鳥の囀ずりが聞こえていた。
今日はお互いに学校だけど、青木は行けるのかな。俺は面倒だからどっちでもいいんだけど。
……とその時。ブーブーと鈍い音が部屋に響く。
青木の近くで鳴ってるスマホはどうやら電話みたいで、まだ鳴り続けている。青木を起こしたくなかった俺は枕元にあったスマホに手を伸ばした。
見る気なんてなかった。
画面に表示されている名前。それは……【麻奈】