あの雨の日、きみの想いに涙した。


『なんの用?わかってるくせにわざわざそんなことを聞くなよ』

テレビの音もなにも聞こえない居間では、やけに電話の向こう側の声がでかく感じる。

この前は酒を飲みながら話していたけれど、ろれつが回っているし声が聞き取りやすく感じたから、おそらく今は飲んでいない。

一秒、二秒と沈黙が続き、父親は静かに言った。


『早くその家を出てけよ』

ドクンと俺の中で悲しい音がした。


わかっていた。べつに期待をしていたわけじゃない。でもこんな俺でも祝ってくれた人がいたから。


〝誕生日おめでとう〟

そう言ってくれた人がいたから……もしかしたらって思っただけ。思っただけだ。


俺はもう一度青木に目を向けた。 

きっとひとりだったら。いや、俺が変われていなかったら……また過去に引き戻されていたと思う。

憎しみと悲しみで体中が支配されて、きっと俺はこんなに冷静ではいられなかった。


過去の出来事。そして父親のことは俺にとってとても大きな傷跡で、思い出すたびにもうムリなんだと諦めていた。自分と過去を切り離すことなんてできやしないって。

でもなんでだろう。

今はちゃんと向き合おうと思ってる。


――『最低だった自分を後悔してるならこれから最低なことをしないお前でいろよ。そしたら俺は冴木と一生友達でいられるから』

『いいじゃないべつに。周りがどんな風に冴木くんを見ようと私はちゃんと知ってるから』


そう。俺の中に過去だけじゃない今の俺がちゃんといるからだ。

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