あの雨の日、きみの想いに涙した。
『……この家をどうする気?』
俺は受話器を握りしめて言った。
『売るんだよ』
父親の答えは即答だった。
この答えを聞いて父親は昔と同じで仕事をしていないのだとわかった。
この家は俺の家ではない。母親の実家であり、ばあちゃんとじいちゃんが守り続けた家だ。俺にとってここは帰る場所であり、唯一父親から逃げれた場所。
もう母親もばあちゃんもじいちゃんもいないけど、きっと三人にとってもこの家は帰る場所なんだと思う。
残された俺はこの家を守らなければいけなくて、こんなヤツに奪われていいものではない。でも……。
『いいよ。それでアンタの気が済むのなら』
こんな理不尽な要求を受け入れる俺をみんなはバカだと笑うだろう。
だけど、これで父親との関係がなくなるなら俺には安い要求で、べつにこの家がなくたって俺は生きていける。
ばあちゃんたちにはわるいと思うけど、でもこの家と繋がってるわけじゃないから。家がなくたって、どこに行ったってきっと三人は俺のことを見てくれてると思うから。
『べつにいいよ。この家はあげるから好きにしなよ』
俺はもう一度、繰り返し言った。